Belle Excentrique  ― 姐を俯瞰する短編 ― 


ニルヴァナ(涅槃)に在る姐は享年弐拾参歳。其の名を欠伸(あくび)と云う。
左様、Do waht ? Sure be do what ?〜と謡い継がれた欠伸娘も結構な年頃である。しかも現世にあってはその美貌たるや、播州炬燵侍の名士イ・ケマーン氏なれど、おいそれとは俯瞰し難い逸物に成長していた。ケマーン氏の活躍は別で筆述するとして、そもそも姐、美貌には秘密があった。他言無用を前提としてここに明かす前に、かつての雀斑(そばかす)&野球帽的飛行少年『かんちゃん』も、今ではマトリくさった(黒客帝国的という意味合い)電脳闊歩のイケ好かぬアンちゃんである。かん氏のイケ好かぬ振りも別述しますからここでは何も聞かないで頂戴。さて、姐美貌談義の続きですが、かん氏の朝敵、犬のBullと懇ろになった頃から、姐・欠伸は腹中に八拾八尺の回虫を飼うようになり、余分な摂取済養分を回虫に常時譲るので太らずに済んでいた訳である。いかんせん回虫は弐週間に一度の割合で、死を迎え糞と共に排出されてしまうので、姐は卵を常備せんがため、其れを服飲しなければならない。無論、卵は未だBullより譲り受けている。Bullは回虫と引き換えに、姐を享受する。Bullだけが許された姐の俯瞰。橘の『陰獣トリステサ』を逆手に取るまでもなく、是はいわば欺瞞に満ちた女房巡回の共有と言えますまいか。とまれ、本日も犬公本乃丸宮殿にてBullは気だるく姐を俯瞰する時間を過ごしていた。ご存知の通り、姐はくさめ魔王の愛娘。不条理な理屈により、かん氏に使える魔王にとっても、またBullは朝敵である。よって欠伸はBullとの関係を父に伏せていた。Bullも其のことを察してか、間違っても己がくさめを施すような悲劇に陥らないよう体調にはくれぐれも気を使い、外出後の嗽(うがい)を欠く事はなかった。閑話休題。魔王くさめ、術はそこそこなれど政(まつりごと)には疎く、失策続きでその地位を追われ今ではビートニクを気取り、ホームレス生活。自慢のちょび髭も手入不足の為、バフバフのラスタファ‐レ。鼻下枯れ枯れの雑草だか陰毛だか解らぬ体たらく。父の鼻の下哀れに思った姐は、得意のゴウゴー舞踏で金策に走り巨万の富を得るも、病魔を厭わぬ魔王のハンバーガー乱喰に金は丸三日で底を尽く。ニルヴァナ(涅槃)に在る姐は享年弐拾参歳。其の名を欠伸(あくび)と云う。案外、その呼び名とは裏腹に苦労が多いものよ。Do be do what ? (了)

 

 


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